造形カリキュラム


  • キャプションが入ります。
  • キャプションが入ります。
  • 一言にピンクといえども混ぜる割合によって数えきれないピンク色ができあがります。「私好みのピンクがやっとできた」
  • 混色することで一人ひとりの個性もより引き立ちます。

【Ⅰ】造形カリキュラムの基本的な考え

2.造形活動とは何か

(2)言葉との関連において
 象徴機能は、言葉とも密接な関連があります。というよりも言葉こそ最も自由度の高いシンボル(象徴)です。バスを表現するとき、本物のバスのところへいかなくとも、積み木をバスに見立てなくとも、絵に描かなくとも、私たちは「ba」と「su」の2音を続けて発声するだけでバスを表現することができます。「ba」と「su」の2音が発せられると、私たちの中にバスイメージが沸き起こり、話す人も聞く人もバスを共有することができます。ですからはじめにふれたように、言葉こそ最も自由度の高いシンボルなのです。
 でも私は冒頭に、描いたり作ったりには"言葉よりも豊饒な意味"が表現されるといいました。それは、こども園時代の子どもはまだ、自分の気持ちや考えを充分に言葉化するだけの語彙も文章力も手に入れていないからですが、描画や工作が"言葉よりも豊饒な意味"を表現するのは、そのような消極的な理由だけではありません。
 子どもたちの描いたり作ったりは、言葉の育ちに連動していて、言葉が育ってこないと描いたり作ったりの表現もゆたかにならないのですが、それは、描く過程において何をどう描くかを考えるとき、子どもたちはかなりの部分を言葉によって整理しているからです。それなのに描いたりつくったりのほうが"言葉よりも豊饒な意味"を表現できるのはなぜでしょうか。2009年4月のしいのみ組のクラス便りを参照します。
 クラス便りによれば、この週はもうすぐ迎える母の日、父の日のプレゼント作りにあてられており、子どもたちの作品は、マーブリングされた台紙を開くとお母さんやお父さんの似顔絵が飛び出すように仕掛けられたカードでした。ある子は水に浮かんだ円を見てミッキーを連想し、それならば仲良しのミニーちゃんも作ってあげようと、もう一つ円を加えたそうです。また、二人並んだ男の子と女の子。男の子がマーブリングのできに「いい感じ」とポツリとつぶやくと、女の子も「わたしもいい感じやろ」と完成した作品を見せ、お互いにお互いの作品を認め合っていたそうです。いよいよ似顔絵を描くときには、「いつも耳掃除してくれる。あとはお洗濯もお買い物も」とお母さんを語る子や、「パパはママがしんどいとき、ご飯作ってくれるで。カレーとか作ってくれるし」とお父さんのことを自慢げに話す子もいたようです。
 ここになにげなく描出された子どもたちのイメージは、なんと豊饒なのでしょうか。水に浮かんだ円がミッキーに見え、そこからミニーが導かれる。まるで魔法のようにマーブリングが描き出す不思議な模様を「いい感じ」と感じ取る。まさに「いい感じ」としか言いようのない気分だったのでしょう。家庭での両親をこども園で思い出して語る子どもの中は、だいすきなお父さんお母さんイメージで満たされています。これらのイメージは、自分の行為の結果として生みだされた色彩やフォルムから触発されたものと、いまここにはいないお父さんお母さんから与えられたものとに大別できますが、子どもたちはそれらのイメージをつなげてあらたなイメージを見いだし、作品に投影していきます。ですから、描いたり作ったりでは、言葉も色彩やフォルムと同様の位置から子どもたちのイメージの喚起の触媒となることが分かりますが、描画における言葉のはたらきはそれだけではありません。色彩やフォルムや言葉によって喚起されたイメージを、つぎのあらたなイメージへの展開につなげてゆくはたらきをも、言葉は担っていることがわかります。
 さらに重要な言葉のはたらきは、目には見えないものを言葉は表現することができることでしょう。「いい感じ」という子どものつぶやきに立ち返れば、子どもが感じ取っているイメージを、言葉がまさに言葉化していることが分かります。言葉化されることで子どもたちは、自分が感じ取っているものを自分のなかにあらためて定着させることができるのです。岩屋こども園アカンパニの描画が「自分の色を作って塗ろう、自分のお話しを作って描こう」を合言葉にするのは、象徴機能や言葉との関連をみればよく理解できると思います。

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