第5章 保健は保育の土台


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第2節 予防ということ

1.生と死

 有機体として生まれたものは必ず死を迎えます。死を迎えた有機体をそのままに放置すると腐り始めます。腐ったものは悪臭を放ったり有害であったりしますが、一方で肥料として活用される場合もあります。たとえば森の循環がそうでしょう。落ち葉や老木は堆積して、水分や熱によって腐葉土となり、森の肥やしになります。私たちの風景から田畑の肥溜めが無くなって久しいですが、人糞もかつては肥やしでした。子どもたちに身近なところでは、たとえば食べ物を放置しておいたり、枯れた花を花瓶に挿したままにしておくなどすると"いい香り"がしたはずのりんごやバラが、やがて鼻も曲がりそうな"臭い!"に変わっていきます。では"いい香り"が良くて、"臭い!"が悪いかというとそうでもありません。腐ったものは悪臭を放つことで私たちに警告を発してくれているのです。その最たるものが"うんこ"でしょう。でも、それはかつて肥やしにもなっていたのです。
 尿や便の排泄時に子どもは臭いことを知り、その臭いが不快なものであることは教えられなくても分かります。園庭に落ちた果物が腐ったり、人工的に腐葉土を作る場所から異臭が漂ったりすると、やはり子どもは臭いと訴えるでしょう。そのような体験なしにバラやユリの花の匂いをいい匂いだと教えても、おそらく悪臭も知る子のそれには遠く及ばないのではないでしょうか。それはあたかも、保育者が溶いた絵の具で描かれた絵よりも、子どもが自分で混色を重ねた絵のほうに深みがあるのに似ています。濁った色や暗い色があることできれいな色がよりきれいに見えるように、悪臭を知ることで"いい香り"をより深く味わうことができるのです。

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